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A STORY TELLING

僕は大学生、ヤツは高校1年生。当時は80年代ジャンプランプ時代でした。第二次スケートボードブームの頂点の前後。三軒茶屋のLAC(新刊65ページ)で出会いました。初めて行くパークで不安な僕に声をかけてくれて、夜中まで一緒に滑りました。知り合いもおらず、一人で下見のつもりで行ったのもあって、ヤツがいなかったら滑らずに帰っていたかもしれません。ヤツは近くに一人で住んでいました。実家は千葉に近い都内の商店街でお店を出していました。実家からもそんなに遠くない私立の高校に通っていて1人暮らしでスケートボーダー。たぶんいろいろなストーリーがあったのかと思いますがそんなことどうでもよかった。深夜のLACで一緒に滑って帰りにヤツの家に寄る。そんなパターンが何度も何度も繰り返されて、地元の友だちや大学の友だちより、ヤツといることの方が多くなりました。高速下のランプも一緒に運んで組み立てたし、新宿中央公園にもマービーズにも蓮沼にも鴨川にも2人で何度も行きました。当時、僕は車があって、高校生のヤツにしてみたらいろいろ動けて楽しかったのかもしれません。あるとき、いつもの定食屋で、ヤツから「テスト行けなくて留年しちゃった」って聞きました。「だから明日滑り行こうよ」って笑っていました。そして高校は中退しました。いくつかバイトを紹介しました。すぐに誰とでも仲良くなる性格でどこでも人気者でした。時間があるときには一緒に大学に行きました。授業終わってからすぐに滑りに行けるように学校に一緒に行くのです。僕もなんだか面白くって大学の友だちにも紹介して、なんだかいつも普通にそこに、ヤツはいました。大学に入って僕も一人暮らしだったので、よくく遊びに来たしいつもスケートビデオを一緒に観ていました。あるとき、玄関のチャイムが鳴りアイツが立っていました。「そこに引っ越してきたよ」と言って玄関のドアを開けました。僕が住む部屋の斜め前のアパートに同じ大学の女の子が住んでいて、そこに転がり込んでいました。お互いのポケベルに「明日どこで滑る?」って連絡が増えました。バイトも頑張って車を買いました。フォルクスワーゲンの黄色い1303Sでした。なんだかセンスいいなあ、って思いました。車の維持費や同棲中の彼女との生活費も必要になり、バイトの数が増えました。僕も生活費や学費があってバイトが忙しかったりして滑る回数が減ってきました。ある日、家のチャイムの音で起きました。徹夜バイト明けで寝たばかりでした。ちょっと身支度して開けたドアの外には怒った顔したオジサンが立ってました。ヤツのお父さんでした。「息子がどこにいるかご存じですか?」と聞かれ、「知りません」と答えました。その後、僕は就職活動を始めてスケートボードは押入れにしまいました。大学でも会わなくなりました。仲が悪くなったのでもなく、意識的にでもなく、会う間隔がだんだん広がっていきました。たまに電話するくらいになって、同棲相手と別れて実家に戻って、家業の修行を始めて、それでも親父さんとは仲が悪くて、スケートボードは全然やってない、って話まで聞き、その後数年は連絡を取り合いませんでした。僕は大学を卒業して就職した会社を辞めてスケートボードショップを始めました。次に連絡が来たときには「結婚することになった」って聞きました。「奥さんはスケートボードが大嫌いで友だちに会わせてくれない」って笑ってました。それもまんざらじゃなさそうだったので少し安心しました。数か月経って「滑ろうよ」って連絡が来ました。深くは考えずにまた一緒に滑るようになりました。車はプリメーラになってました。「でもボロボロの1303Sは動かないけどまだ持ってるよ」って聞いて仕事も順調なんだと勝手に思いました。いろんな所に滑りに行きました。「昔のスケート仲間とよく遊ぶようになった」って聞きました。また少し経ち、深夜に電話がありました。「離婚した相手に会いたくて辛い」という内容でした。僕は離婚したことも知りませんでした。それからはたまに会ってスケートしたり食事に行ったり、ショップに遊びに来たりと合う回数が少し増えました。ヤツはヤツで昔のスケート仲間たちとまたつるむようになりました。そしてその仲間たちとアパレルブランドを始めるとか、もっと練習してスポンサーを見つけるとか、キラキラした目で話していました。でも商品になったアパレルを見ることはありませんでした。「車買った」と言うので一緒にドライブに行きました。パサートの新車でした。どこに行ったかは忘れました。「ローンでなんでも買えちゃうね」って言ってました。どこだか遠いところに行った気がします。とくになにをするわけじゃなく、ただただずっと走ってました。それからもう何年も経ちますが、僕にも僕の周りの友だちにも連絡はありません。何度もかけて暗記していたアイツの電話番号はもう変わっていました。ちょっと時間が空くとヤツはどうしているのかと、ふと考えてしまうのです。

Honma