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世の中インターネットとSNSの普及でとても便利になりましたね。全世界で写真や動画は絶え間なく、youtubeやInstagramなどにアップされ、新鮮でフレッシュな情報からオールドスクールな歴史までも勉強できる。自分たち昭和世代からすると(便利になったな~)というのが実感ですが、平成生まれの、さらに現在10代の人たちにとってはこれが標準装備されてるわけで、世の中の移り変わりに少し戸惑いとギャップを感じる今日この頃です。そんな無料でお手軽なコンテンツが広がる中、時代に逆行するかのようにSbは値上げをしました。それはアベノミクスの失敗だとか円安の影響だとかの外的要素は関係なくて、紙質の向上だったり写真をより良く見せるための印刷技術に特化しはじめたからで、これはもはや編集長自身の自己満足なこだわりが関係しています。しかし、このこだわり(=付加価値)というものがスケートボードには必要不可欠な要素で、オーリーひとつにしても、技というものにスタイルやスポット、ファッションなどの付加価値が付随して表現されているのだし、撮影するフォトグラファーもアングルや光の具合などの技術的なことから、時間帯や天候などさまざまな付加価値を組み合わせて、より良くスケードボーダーが写しだされるよう試行錯誤しているのです。そうしたら本をつくる側としてもより良く見せるための努力は当然で、当たり前だと僕は感じています。もちろんこの付加価値というものの捉え方や評価はひとそれぞれであります。が、ちょっと大袈裟な言い方かもしれませんが、スケートボードからこの付加価値を排除してしまうと、「カッコよく」とか「スタイリッシュに」などといったアート的な概念はなくなり、点数を競い合うただのスポーツになってしまいます。もちろんコンテストなどスポーツ的な要素もスケートボードを楽しむひとつではありますが、点数が物差しだけのスケートボードには一生をかけて楽しむには限界があるように思います。スケートボードには技という共通の動きに、スタイルやファッション、音楽、グラフィック、一緒に滑るクルーだったりと、本当に多くの要素が自分を表現する付加価値としてあるのです。そんな付加価値があるからこそ、たとえコンテストで優勝するようなスキルがなくても、雑誌やビデオに出て有名になんてなれなくても自分の生活の一部として、ライフスタイルとして歳をとっても夢中になれるのだと思います。もちろん今回Sbが表現、提案する付加価値は製作者サイドのこだわりではあるけれど、見る側もこだわりを持って見ることで両者の感性は刺激され、スケートボードがもっと「カッコイイ」ものになっていく。そんな気がしています。感性は生まれ持ったセンスもあるけれど、自分自身で磨くことによって高めるものでもあります。PCやスマートフォンの画面で見る写真と、紙面に印刷された写真ではまったく違うし、撮影者自身の手によって焼かれた一枚は、力強さだったり優しさだったりの感情までもが滲み出る最高の作品です。youtubeで見る動画と、デザインされたジャケに入れられお金を出して買った一枚のDVDの映像はまったくの別物です。そんな製作者の感性の詰まった作品には対価を払う価値があります。またそれは対価を払った自分自身の感性の成長や価値観の深さにつながっていくのです。僕は普段プラスチック製品の成形現場で仕事をしています。下請けのまた下請けという末端の現場で要求されるのは、1/100ミリ単位の寸法管理とコストダウン。与えられた金型と材料で一定の寸法に成形するのですが、温度に敏感なプラスチックは季節や天候も成形に影響してきます。それこそ同じ材料でもロットによって微妙に寸法は変わってきます。ある程度の検査基準をクリアすれば製品としては問題ないのですが、現場のこだわりはより綺麗でより精度の高い製品にすること。そんなこだわりを持っていないと、あっという間に倒産しかねない末端の町工場です。我が家でも大活躍している吸引力で有名な某掃除機。妻はその吸引力に満足のようだけど、その掃除機の外装プラスチックには大きなウェルドと色ムラがある。形状や材料的にそのウェルドを消すことが容易でないのは同じプラスチック屋としてわかっているし、吸引力や使い勝手に影響がないのもわかっている。でもどうしても納得できないのです。使えれば問題のない妻と、どうでもいい部分に気をとられる夫。結局のところ付加価値とはそういうもの。あってもなくても問題はないけれど、見る人が見ればわかる。わかっている人はわかる。きっと写真や音楽や料理など、さまざまな世界においてホンモノとして認められる人はそのこだわりを貫き通しているのだと思います。スケートボードではコンテスト優勝という肩書きよりも、一枚の写真、ひとつのフッテージが賞賛されることが多々ありましら。これはスケートボードにおいて今も昔も変わらないと信じていたいです。やってない人にはわからない。でもやってきた人にはわかる。結局のところそういうもんだ。このアップデートしたSbをみなさんはどう捉えるのか。値上げしたから買わなくなってしまうのか。それとも付加価値に共感して感性を刺激するのか。無料でお手軽なコンテンツが蔓延するこんな時代だからこそ、そんな反応を楽しみにしている今日この頃でもあります。

Eiji Morita