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TANGENT

安っぽい乾いたエンジン音が聞こえてくる。この街では、それはきまって午前4時を過ぎるかどうかの時間。新聞配達のバイクは夜が一番深いところから朝になろうとする頃、街を走る。春夏秋冬、雨の日も風の日もどんな日でも音がする定点観測。当然、四季がある日本では、夜と朝の境目あたりはいつも同じ空の色でもなければ同じ街の色でもない。日に日に眩しくなっていき、あるときから日に日に光から遠くなる。そこにはカレンダーに頼らない365日分の日付があるのだろう。ただ、あの音を聞くともうじき朝がやってくることを実感し、太陽が昇りはじめて明るく照らされている街を連想する。前日に暴風雨が迫っていても、震災があったあの日でさえも、この街では新聞配達のバイクの音が聞こえてきて、新しい朝を連想させてくれた。恐怖がこびりつく夜、身も心も寒くてしかたがない夜、寂しい夜、不安な夜。それとは別で楽しかったり威勢が良かったり、幸せな気持ちでスヤスヤ眠りにつけることもある。そして、新しい朝の訪れを見ぬまま消えていくものもあれば、朝になる前に本来の場所へと飛び立っていこうとするブラックバードもいるだろう。いずれ、そういうときはやってくる。とにかく、ネガティブな夜に支配されているとき、朝がどれほど待ち遠しいか。朝をさえずる鳥が見当たらくなって久しいこの街で、夜と朝の境界線で孤独から解放してくれるその音。新聞の内容に納得して頷くことは減ってしまったが、その音には漠然とした希望だったり活力を感じている。ということで、365日分の最初の朝がやってきた2012年。新年2月発売のSb新刊はジャーニーメン号。いろんな人の旅をページに綴ってもらった。異口同音ではなく、それぞれの本当。人はみな人生を旅している。その最中に不完全でもどこかで繋がり合っていた、刹那でも繋がることができていたこと、そういうものへの感謝と旅立ち。いざというとき、せいぜい物質的に準備できるのはバックパック1つほど。あとは心の準備と覚悟と行動。感謝といつも以上の行動力を持って、遠かった夜明けに。

Senichiro Ozawa