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my hometown color 第三話。これはとある千葉の田舎話のつづき。昼間の駅前はデパートや専門店で買い物をする中高年の人たちで賑わうこの街。
午後8時にもなると、街の空気と住人は変貌する。買い物帰りのオバチャンをギター弾きながら改札で見送るミュージシャンに、酔い潰れたサラリーマン。ビシッとリーゼントでキメたロカビリーとその横にウンコ座りのヤンキーたち。ファミリーカーで渋滞していたロータリーは今度は族車で渋滞する。そう。時代はビーバップハイスクール全盛期。この街もあの街もどの街も、メインストリームはヤンキースタイルだった。他にも様々な人種が集まる駅前、通称「デッキ」。その中でも俺らは何故かイラン人と仲が良かった。陽気なテンションの彼らはスケートボードを見ると近づいてきて「カシテクーダサーイ ! 」と、ぎごちない日本語とぎごちないプッシュで大笑いしながら駅前を走り抜ける。サッカーの元イラン代表選手を名乗る奴もいた。そいつは落ちてた空き缶で華麗なリフティングをしながら大笑いしてる。彼らもヤンキーと並んでこの時代の風物詩。どこの繁華街でも必ず見かけたといってもいいかもしれない。「ボクタチハ、ナンデモテニハイリマース。ナニカ、コマッタコトアッターラ、イツデモイッテクーダサーイ!」と、頼もしい言葉をかけてくれたが、その後入管の取締りが厳しくなると彼らはこつ然と街から姿を消した。ある週末。その日もいつものように朝まで滑っていた。始発電車が動き出す頃合いを見てプッシュで駅へと向う。いつものルートと違う路地を進む。そこはいかがわしいネオンが眩しいスナックや飲み屋がある、いわゆるダークサイドな路地。夜明けの閉店時間と重なり店頭では看板を片付けながら掃除をする強面なオジサンたち。案の定「うるせ~んだ!コノヤロ~!」とお叱りの言葉。ここまでは想定内。しかし、ここでひとつ先輩のトラブルメーカー高井くんの悪ノリがはじまる。「うるせ~んだ~コノヤ~ロ~~」と小オウム返し攻撃。もちろん強面なオジサンたちはダッシュで追いかけてきた。「全力疾走 vs フルプッシュ」のガチンコレースがスタートした。200mほど進むと徐々に差は詰まり、目の前にはT字路が迫ってきた。ここが運命の分かれ道。目の前をプッシュしていたみんなは左へ曲がり駅前へと向かう。最後尾の俺だけは何故か右へと曲がった。その先にある歩道橋に上がったところでようやく振り返ってみると、運命のT字路で後輩のヒデが捕まっていた。金網フェンスへ投げつけられ万事休すと思われたその瞬間。トラブルの発端となった高井くんが戻って身代わりとなった。もちろんその場でボッコボッコにブン殴られ、しまいにはオジサンたちのお店の地下へと連れてかれてしまった。「駅で待ってて」。高井くんの遺言のような言葉を信じて駅で待つこと1時間。高井くんは生還した。顔面は腫れ上がり血だらけだ。でも何故か高井くんは半笑いだった。話しを聞くと、地下で殴られてるとそこへ親分らしき人がやってきて止めてくれたそうだ。そして、その親分は「そんな顔じゃ電車にも乗れんだろう。これでタクシーで帰れ」と5000円を差し出してきたそうだ。血だらけの高井くんはその5000円を握りしめ、電車でバイオレントグラインドへと買い物に向かった。この男もまたヤンキー育ちのクールな男だった。つづく。。。

Eiji Morita

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